毎日、お疲れさまです。
今回は犬の甲状腺機能低下症についてまとめていきます。
甲状腺機能低下症とはどんな病気なのか、どんな症状があったら発症が疑われるのか、発症が疑われた場合、どんな検査をすればいいのか、治療法には何があるのかなどについて、調べてみました。
興味があればお付き合いくださいませ。
甲状腺機能低下症ってどんな病気?
「甲状腺」について
「甲状腺」とは、体の新陳代謝を促進するホルモン(甲状腺ホルモン)を出す器官で、喉の中央(口から胸までの間の中間地点あたり)の気管の両側にある臓器になります。
甲状腺は、脳の下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)を受取ると、食べ物に含まれるヨウ素(ヨード)を原料にして甲状腺ホルモンを生成。
トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)という2種類のホルモンを分泌します。
この2種の甲状腺ホルモンが血液中に分泌され、全身に運ばれるわけですが、生命維持のためには、この甲状腺ホルモンが適正量で維持されることがとても重要になります。
そのため、甲状腺はホルモンに余分があれば甲状腺内に貯蔵し、あるいは量が足りない場合には、必要な量を分泌するようにして、体内の甲状腺ホルモンの量が常に適量になるよう調整しています。
甲状腺機能低下症とは
この甲状腺に何らかの異常が生じ、甲状腺ホルモンが減少(不足)する病気です。
新陳代謝を促進するホルモンの減少(不足)により、基礎代謝が低下します。
それにともなって体中の各器官の機能が全体的に低下していき、その結果、体中の至るところで、さまざまな悪影響があらわれるようになります。
甲状腺機能低下症になる原因
原因にはいくつかのケースがあります。
原因その① 自己免疫性
通常、自分自身の体内にある免疫システムは、ウイルスなどの外部の敵に対し攻撃を仕掛けます。
ところが、この免疫システムが誤作動を起こし、正常な細胞(甲状腺)を異物とみなして抗体(攻撃部隊)を生成。甲状腺に対して攻撃を仕掛け、細胞を破壊してしまいます。破壊された甲状腺は萎縮または壊死してしまうため、甲状腺ホルモンの産出量が減少します。
多くの場合、甲状腺機能低下症の原因はこれ(自己免疫反応)によるものとされていますが、免疫システムが誤作動を起こす原因自体は、いまだ解明されていません。
原因その② 脳からの命令異常
上述のとおり、甲状腺は脳の下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)を受取ることによって、甲状腺ホルモンを産出します。
そのため、下垂体から「甲状腺刺激ホルモン(TSH)を出せ」という命令が届かない場合、甲状腺ホルモンは産出されず、甲状腺ホルモンの不足が生じることになります。
\甲状腺ホルモンが少ないね。産出してもらっていいかな/\了解です/
二次性甲状腺機能低下症ともいいますが、これを原因とする甲状腺機能低下症はまれで、上述のとおり、多くは自己免疫性の甲状腺破壊(原発性)が原因と考えられています。
原因その③ 遺伝
遺伝性な要素が甲状腺の機能不全が原因となるケース。
甲状腺機能低下症はどんな犬でもかかる病気ですが、発症しやすい犬種もあり、遺伝性による発症も原因のひとつとして考えられています。
原因その④ 薬や他の病気
その他では、
などがあります。
これらは、服用中の薬を止める(あるいは他の薬に変更する)、原因となる元の病気が治癒する、などによって甲状腺機能も正常化します。
発症しやすいのは?
犬種
・ゴールデン・レトリーバー
・シベリアン・ハスキー
・シェットランド・シープドッグ
・柴犬
などが多いようですが、これら以外でも、雑種を含めどんな犬種でも発症します。
体型
小型犬の発症は比較的めずらしく、中型犬~大型犬で多く見られます。
おもな症状
甲状腺機能低下症の主な症状としては、以下のものがあります。
元気の消失
・運動をいやがる
・散歩中とぼとぼと元気なく歩く
・少し散歩したら、すぐに家に帰りたがる
・目に覇気がない
\ ……アンニュイ /
異常に寒がる
・夏でも日のあたる窓側などの場所に行きたがる
・冬は暖房機器から離れない
・震えていることが多い
被毛・皮膚の異常
・被毛はパサつき、光沢がない
・換毛が起こらない、もしくは途中で止まっている
・大腿部やわき腹の抜け毛(大型犬では四肢の脱毛も多い)
・尻尾の脱毛
・腹部の皮膚の黒ずみ(色素沈着)
・全身の皮ふ炎
発情異常
・発情しない、もしくは発情周期が不規則になる
これらの症状(とくに元気の消失)は、高齢犬では「老化によるもの」と考えがちですが、もしかすると年のせいではなく、甲状腺機能低下症によるものかもしれません。
では、「ちょっと不安になったから、愛犬が甲状腺機能低下症でないか調べてみたい」という場合、どのような検査をしたらよいのでしょうか。
甲状腺機能低下症の診断に必要な検査はいくつかありますが、このうち必要最低限の検査内容と考えられている4つの項目について解説していきます。
診断に必要な検査項目など
多くの場合、甲状腺機能低下症の診断は、
① 保護者からの症状の聞き取り(問診)
② 血液中に含まれる甲状腺ホルモン(T4、FT4)の数値
③ 下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値
③ コレステロール値の測定
から総合的に判断します。
保護者からの症状の聞き取り(問診)
すべてはここから始まるといっても過言ではありません。
上述のとおり、甲状腺ホルモンは全身の至る所でさまざまな症状を引き起こしますので、特定が難しい疾患のひとつ。
上記の症状のうち、あてはまるものがあれば、「該当する症状」および「甲状腺機能低下症の疑いをもっていること」を正確に獣医師に伝えましょう。
血液中に含まれる甲状腺ホルモン(T4、FT4)の数値
血液検査(および血中ホルモン検査)を行う必要があります。
採血の方法としては、通常の血液検査と同じです。
ただし、血中ホルモン検査は、ほとんどの動物病院で検査は外部に委託しているケースが多く、外部に検査を委託するの場合、結果がわかるまでに少し時間を要します。
また、結果に影響を与えないよう、採血時間の8~12時間前は絶食を勧められると思います。各動物病院(獣医師)の指示にしたがうようにしてください。
測定するのは、採取した血液の中に含まれる甲状腺ホルモンのうち、サイロキシン(T4)および遊離サイロキシン(FT4)の2つの数値。
この数値がそれぞれ正常値内にあるかどうかがチェック項目となります。
サイロキシン(T4) | 遊離サイロキシン(FT4) | |
正常値※2 | 0.84~3.46 | 0.60~3.20 |
甲状腺機能低下症(原発性)※3 | 0.5(㎍/dL)に満たない | 0.5(㎍/dL)に満たない |
甲状腺機能低下症(二次性・三次性)※3 | 5(pmol/L)に満たない | 5(pmol/L)に満たない |
FT4の数値が低いということは、働いている甲状腺ホルモンが少ないことを意味しており、すなわち、甲状腺機能が低下していることを示しています。
なお、甲状腺ホルモンはとても不安定な数値で、甲状腺に問題のない健康な子でも数値が低く出ることもあります。ですので、この数値だけではなく、さまざまな要因を総合的に判断し、診断する必要があるのです。
下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値
これも血液検査(および血中ホルモン検査)によって測定します。
上記のサイロキシンの測定と同時に出来ますので、2回採血する必要はありません。
甲状腺刺激ホルモン(TSH) | |
正常値※2 | 0.50に満たない |
甲状腺機能低下症(原発性)※3 | 0.3(ng/mL)を超える |
甲状腺機能低下症(二次性・三次性)※3 | 0.05(ng/mL)に満たない |
甲状腺刺激ホルモン(TSH)の働きは、甲状腺ホルモンが不足している場合に、「甲状腺ホルモンを出せ」という命令を送りホルモンを産出させる、というものでした。
ですので、①甲状腺刺激ホルモンが少ない、すなわち「命令がない」状態では、甲状腺ホルモンが産出されずに甲状腺機能低下症になる、ということは予想どおりです。
しかし、②甲状腺刺激ホルモンがたくさん出ているにもかかわらず、甲状腺が損傷を受けているために命令が伝わらず、甲状腺機能低下症となるケースもあります。
この場合、甲状腺刺激ホルモンは過剰に分泌されているため、数値は高くなりますが、甲状腺の機能は命令がきけない状態に損傷しており、「甲状腺機能低下症」と診断されます。
(伝わらない命令がたくさん送られている状態。カオスですね。)
① 甲状腺刺激ホルモン(男性側)の異常

うーん。ホルモンの量はまだ大丈夫そう。
(ホルモンの不足を感知できていない)

了解。じゃあ、ホルモンは産出しないね。
② 甲状腺(女性側)の異常 (下垂体(男性)の命令は正常。甲状腺(女性側)に異常がなければ本来問題ない)

早くホルモンを分泌してください。


ホルモンが足りてないんです! 急いで。早く。今すぐ!
ちなみに、原発性・二次性・三次性※3には、
甲状腺の萎縮・壊死が原因のもの | 原発性 |
下垂体からの甲状腺刺激ホルモンの産出異常が原因のもの | 二次性 |
視床下部からの甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの産出異常が原因のもの | 三次性 |
という違いがあります。
ただし、犬の甲状腺機能低下症の場合、二次性・三次性を原因とするケースはほぼなく、多くは原発性のものが原因とされます。
■※2正常値 参照元:株式会社ランス(小動物専門の臨床検査会社)(http://www.lans-inc.co.jp/inspection/data/naibunpitu1.pdf)
■※3異常値(診断基準)参照元:犬と猫の内分泌疾患ハンドブック(2011.9.11 版)松木直章(東大・獣医臨床病理学研究室)(http://www.vm.a.u-tokyo.ac.jp/vcpb/endo-dx.pdf)
コレステロール値の測定
コレステロール値の上昇もよく見られるため、これも測定する必要があります。
血液検査で調べることになりますが、同じく上記3つの数値(T4、FT4、TSH)の測定と同時に出来ますので、2回採血する必要はありません。
治療法について
甲状腺機能低下症と診断された場合の治療法は、以下のとおりになります。
他の病気が原因の場合
当然のことながら、他の病気の治療を行います。他の病気が治癒すれば、甲状腺機能低下症も回復します。
なお、他の病気が何かにもよりますが、他の病気の治療と同時に、甲状腺機能低下症の治療のためのホルモン薬の投与を行う場合もあります。
詳しくは獣医師の指示にしたがうようにしてください。
服用中の薬が原因の場合
服用を止めても問題がなければ、服用を中止します。服用を止めて問題がある場合、他の薬に変えられないか獣医師と相談してみてください。
言わずもがなですが、服用の中止・薬の変更は決して独断で判断せず、必ず獣医師に相談のうえ、決定するようにしてください。
上記に該当しない場合
甲状腺ホルモン製剤を経口投与(口から飲む)することになります。
ホルモン製剤を投与することにより、ほとんどの症状は改善されます。
ただし、変性を起こした甲状腺の機能が回復する見込みは少ないため、ホルモン製剤の投与は生涯続けていかなければなりません。
また、製剤の量にも細心の注意が必要で、製剤が少なければ症状は改善されず、多すぎれば甲状腺機能亢進症を起こし、かえって愛犬の体に危険を及ぼします。処方された薬の管理には十分に気をつけるようにしてください。
まとめ
以上、犬の甲状腺機能低下症についてまとめてみました。
甲状腺機能低下症にはさまざまな症状がありますが、「元気がない」「目に力がない」などの症状は、一緒に暮らす家族にしか気づくことが出来ません。
早期発見、早期治療は健康寿命を延ばす必須条件。
上記の症状のうち、あてはまる項目が3、4個以上ある場合はもちろん、とくに現状ではあてはまる症状がなくても定期的な健康診断で血液検査を行うときには、「ついでに血中ホルモンも一緒に調べてほしい」と伝えてみるのはいかがでしょうか。
最後までお付き合い、ありがとうございました(‘v‘)
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