毎日、お疲れさまです。
前回、成犬のワクチンスケジュールについて説明させていただきました。その流れで、今回は子犬のワクチンスケジュールについて解説していきたいと思います。
なお、今回もWSAVA(World Small Animal Veterinary Association.【世界小動物獣医師会】)、VGGのワクチネーションガイドラインを参照しています。
はじめて犬を迎える方、愛犬がお母さん、お父さんになって、もうすぐ子犬が産まれるという方などにご一読いただければと思います。
興味があればお付き合いくださいませ。
WSAVA・VGGって何?
『WSAVAについて』『VGGについて』は前回の記事で記載しています。詳しく知りたい方は以下のページをご参照ください。

はじめに(誕生日について)
VGGのワクチネーションガイドラインでは誕生日のある週を0週齢として以降のスケジュールが立ててあります。
ですので、子犬の誕生日がわかっている必要があるのですが、動物愛護センターから譲り受けたり、偶然どこかでめぐり合ったりして、子犬の誕生日が不明なケースもあるかと思います。誕生日がわからない場合の考え方については、また別のページで詳しく記載していきます。
今回は子犬の誕生日がわかっている場合にしぼって説明していきます。
コアワクチン接種のスケジュール
コアワクチンは、住んでいる地域やその病気にかかるリスクがあるか否かなどにかかわらず、すべての犬が接種すべきとされるもので、
- 犬ジステンパーウイルス(CDV)
- 犬アデノウイルス(CAV)
- 犬パルボウイルス2型(CPV-2)
が含まれます。
子犬の誕生日のある週を0週齢として、6~8週齢で初回コアワクチンを接種します。
その後、16週齢またはそれ以降まで、2~4週齢間隔でコアワクチンを接種する、というのがVGGの推奨するコアワクチンのスケジュールです。
初回から2回目、2回目から3回目のコアワクチン接種の間隔を最短にするか最長にするかなどによって、摂取回数が3回になるか4回になるかが変わってきます。
例)パターン① | 例)パターン② | |
初回のワクチン | 7週齢 | 8週齢 |
2回目のワクチン | 10週齢(3週齢後) | 12週齢(4週齢後) |
3回目のワクチン | 13週齢(3週齢後) | 16週齢(4週齢後) |
4回目のワクチン | 16週齢(3週齢後) | ― |
上記の表の2パターンはあくまで一例です。表のパターン以外にも考えられるワクチン接種スケジュールはいくつかあります。
どのようなスケジュールを組むかは、子犬の健康状態や体重、他の病気の有無などによって、獣医師と相談のうえ、お決めいただければと思います。
ちなみに、イギリスでは、1回目8週齢、2回目12週齢、3回目16週齢のスケジュール(以下の画像参照)でコアワクチンの接種が行われています。
このケースにおいて、無事に16週齢を迎え3回目のコアワクチン接種が済んだら、次のワクチンについて、保護者さんは以下の3つの道のいずれかを選ぶことができるようになります。
② 26週齢で再接種する
③ 52週齢で再接種する
① 20週齢で抗体検査をする
20週齢を迎えたところで、抗体検査(犬用ワクチチェック)を行うことができます。
犬用ワクチチェックとは犬の血液を採取して、抗体があるかどうかを調べる検査で、抗体があると認められた場合、26週齢および52週齢のワクチン接種が不要となります。
以降は成犬のプログラムに移れますので、16週齢のワクチン接種後、次の接種は3年後の3歳4ヵ月弱(16週齢)あたりで接種すればよいことになります。
ただ、抗体検査してみたけれど抗体がない場合には、26週齢または52週齢でのワクチンの再接種が必要です。
② 26週齢(およそ誕生日の半年後)にワクチンの再接種をする
- 20週齢で抗体検査をしない場合、
- または抗体検査で抗体がなかった場合、
26週齢(およそ誕生から6カ月後)にワクチンの再接種を行います。
26週齢でワクチン接種をした場合、52週齢のワクチンは不要です。
以降は成犬のプログラムに移れますので、26週齢のワクチン接種後、次の接種は3年後の3歳6ヶ月(26週齢)あたりで接種すればよいことになります。
③ 52週齢(およそ誕生日の1年後)にワクチンの再接種をする
- 20週齢で抗体検査をしない場合、
- 抗体検査で抗体がなかった場合、
- または26週齢で再接種をしなかった場合、
52週齢(およそ誕生から1年後)にワクチンの再接種を行います。
以降は成犬のプログラムに移れますので、52週齢のワクチン接種後、次の接種は3年後の4歳(52週齢)の誕生日あたりで接種すればよいことになります。

狂犬病ワクチンについて
日本においては、狂犬病ワクチンもコアワクチンに含まれています。
狂犬病予防法上、1年に1回の接種が義務付けられており、子犬は生後91日後以降、狂犬病ワクチンを接種しなければなりません。
生後91日後はコアワクチンの2回目の接種(12週齢)あたりですが、狂犬病ワクチンは他のワクチンとの同時投与は避けるべきとされています。場合によっては、他のワクチン接種から1ヶ月以上間隔をあける必要もありますので、いつ接種するかについては獣医師とご相談ください。
狂犬病ワクチンは毎年接種しなければならないの?
結論を申し上げると「法律上の義務のため、接種しなければならない」です。
狂犬病は致死率も高いため、現在のところ、私自身は狂犬病ワクチン接種を否定する立場ではありません。ただ、毎年接種には疑問を持っています。
なぜ毎年摂取と定められているかというと、当初、承認された狂犬病ワクチンの免疫持続期間が1年間しか持たなかったため、そのように規定されたそうです。
しかし、2017年、東京大の杉浦勝明教授らの研究チームは国際獣医学誌「プリベンティブ・ベタリナリー・メディスン」に、狂犬病予防ワクチンの接種間隔を2、3年に広げても効果が持続する可能性が高い、と発表しています。
VGGのガイドラインにおいても、2015年現在の時点で「多くの国で3年の免疫持続が認められ、それに伴って法改正もされている」と記載されており、
3年以上の免疫をもたらす製剤を入手できる場合には、全国的な獣医師協会は法律を最新の科学的エビデンスに合致するように変更するために働き掛けを行うことができる。
としています。
現在のところ、年1回の接種は法律上の義務ですので、健康上に問題のない子であれば接種しなければなりませんが、今後、獣医師団体の働き掛けによって法律が変わる可能性はあります。
不要なワクチン接種がなくなることで、きつい思いをする子が減り、同時に保護者の経済的負担も少なくなればいいなと思います。私も何かできることがないか調べてみます。
(公益社団法人日本獣医師会のホームページのお問い合わせはエラーで開けなかったので)
ノンコアワクチンの接種スケジュール
犬のノンコアワクチンは、その病気がまったく存在しない地域やかかる可能性が非常に低い地域では接種しなくてもいい、と考えられているワクチンで、
- 犬パラインフルエンザウイルス
- レプトスピラ
- ボルデテラ・プロンキセプチカ
- ボレリア(ライム病)
が含まれます。
犬パラインフルエンザウイルス
犬パラインフルエンザウイルスも子犬の誕生日のある週を0週齢として、6~8週齢で初回ワクチンを接種します。
その後、16週齢またはそれ以降まで2~4週齢間隔でワクチンを接種し、26週齢(6カ月後)または52週齢(1歳齢)に再接種を行います。
16週齢のワクチンまでは、コアワクチンと一緒のタイミング(混合ワクチン)で行って問題ありませんが、その後は【コアワクチンの抗体検査を20週齢で行うか行わないか】などでタイミングがズレる可能性があります。
6カ月後または1年後に再接種したら、次回からは成犬のスケジュールに移行し、年1回のペースで接種していきます。

レプトスピラワクチン
レプトスピラのワクチンはこれまでのワクチンと異なり、8週齢以降に初回接種、2~4週後に2回目の2回の接種で子犬期のワクチネーションが終了し、次回からは年1回の成犬プログラムに進むことができます。
たとえば、初回8週齢、2回目12週齢でワクチンを接種したならば、次回は1年12週齢、自次回は2年12週齢で行うことになります。
レプトスピラだけの単体ワクチンもありますが、病院によっては取り扱いが混合ワクチンのみで、単体ワクチンは置いていない可能性もあります。もしかしたら取り寄せは出来るかもしれませんので、詳細は各動物病院にお尋ねください。
獣医師のワクチンスケジュールがVGGガイドラインとまったく異なることもある
さて、獣医師によっては、VGGのワクチンスケジュールとまったく異なる提案をする場合があります。
その理由は【ワクチン製剤の添付文書】。
VGGのガイドラインによると、現在、多くのワクチン製剤の添付文書では【初年度に2回のワクチンをすること】が推奨されており、なかには、2回目のワクチンを10週齢ですることが認可されているものもある、とのこと。
すなわち、添付文書に沿った「正しい使い方」をするために、たとえば7週齢で1回目、10週齢で2回目のワクチン接種をして、その後は年1回、というスケジュールを組む獣医師がいらっしゃるのだそうです。
上述のとおり、VGGのガイドラインでは、科学的根拠に基づき、子犬の初年度のコアワクチン接種については可能な限り、16週齢以降かそれ以降に最後の接種を行うことを推奨しています。
とはいえ、添付文書に書かれてない使用方法を取った時に責任問題にもなりかねませんので、獣医師としてはこのガイドラインを認識していても、ワクチン製剤に書かれている使い方をするしかない場合もあるのかと思います。
獣医師がガイドラインと異なるワクチンスケジュールを推奨してきた場合、何かしら考えがあるはずです。副作用なども含めた説明を十分に聞き、きちんと納得したうえでワクチン接種を行うようにしてくださいね。
まとめ
以上、VGGのガイドラインに沿った場合の子犬のワクチン接種スケジュールについて解説していきました。
ワクチンを接種すべきか否かについて、考え方はヒトそれぞれだと思います。
副作用が怖いからしない。
感染症が心配だからしておく。
どちらの考えも、とてもよくわかります。
その感染症ウイルスに生涯一度も接触しないかもしれないし、明日、そのウイルスを持った動物と接触してしまうかもしれない。
こればかりは、誰にも予測できません。
ただ、間違いなくいえることは、あなたの選択が、あなたの愛犬の未来を決めるということです。
ちなみに、私自身は後者のリスク回避のため、愛犬にはワクチンを接種してもらっていました。愛犬が感染症ウイルスと接触したのかどうかを調べる術はありませんので、私の選択が正しかったのかどうかは分かりません。
感染症は怖いけど、身体が心配だからワクチンを接種させたくないなど、何かしら不安があるのであれば、ひとりで悩まず、是非とも獣医師に相談してみてください。
最後までお付き合い、ありがとうございました('v')
■WSAVA 犬と猫のワクチネーションガイドライン2015年版
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